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ライブCD

【あなたの孤独をひとりで逝かせるな 高円寺ALONE 2019】収録曲歌詞



1.沈みゆく舟


なんて頼りないんだろう

穏やかな凪にへばりついて

腹を見せる黒い舟の中で

青空へ引き剥がされることもなく

きみにお別れをいう前だけど

もうすべて決まってしまった後のこと

きみがいなくて

きみなしで沈む舟

逃げ出すことができても

きっと生きていけない


なんて惨めなんだろう

夜風より冷たい波を呑んで

ずぶ濡れの黒い旗を振りながら

闇夜にまぶたを閉じることもなく

きみにお別れをいう前だけど

もうすべて終わってしまった後のこと

きみがいなくて

きみなしで沈む舟

逃げ出すことができても

きっと生きていけない



2.マンジュバザール


ここは満洲 マンジュバザール

追う者追われる者 皆

裏切り者 裏切り者


片肌の合の裾から

おかしな色の月明かり

滑り込む 滑り込む

青く揺れる御霊の手が伸びる


泥を枕に眠る者たちの

おかしな色の腹を

裂いていく 裂いていく

青く揺れる御霊の手が伸びる


朝がくる前にここを渡ろう

捲れた腹を踏み抜いて

背骨が足の裏で外れる音がした


痛い 痛い 痛い 痛い 痛い


ここは満洲 マンジュバザール

追う者 追われる者 皆

裏切り者 裏切り者 裏切り者


3.アハハア


「出口はない」といわれた

入り口は確かにあったのに

手足に釘を打たれて

闇に紛れ唇を噛んでいる


回復の術を得た夜に

治療の術を知る夜長

不安が恐怖に姿変えて

息つまらせて遠のいていく


イヤならイヤといってみな

イヤならイヤといってみな

イイときイイといえないなら

ほら おまえは


もう誰もいねえ アハハア

ここは踊り場だからな


誰のせいでもないらしいけど

なぜか陰を背負うんだろう

恐怖が鏡に吸い込まれて

踊り場に取り残されるだけ


イヤならイヤといってみな

イヤならイヤといってみな

イイときイイといえないなら

ほら おまえは


もう誰もいねえ アハハア

ここは踊り場だからな



4.トドメゲキ


ねぇあたしの涙 唇でそっと拭っておいてさ

あいつ弄んだ 同じ口づけなんてするから


ねぇ雨が走り寄ると 香り閉ざせし夜の花

それがあんた 雨音匙にすくって舌の上で甘みを増すの


惨めでしょう まさか

こんな終わり 露にも思うまいよ

噛みちぎられ

縫い 合わせ 解かれ 傷痕


呼びもしない未来がご丁寧に迎えにきた

後ろ手に断頭台に上がる

手枷断ち切るナイフを握らされていても

あんた まるで照れ隠し 苦笑い

トドメなら トドメなら

てめえでさせよ


ねぇ夜滲み出す朝 いつもの遊歩道の側で

青痣だらけわたし あんたの首抱いて目覚めない


もうわたし 治った 治った

信じることを覚えたんだ

ただ笑って 笑って 笑っていれば

いいんでしょう


呼びもしない未来がご丁寧に迎えにきた

後ろ手に絞首台に上がる

手枷断ち切るナイフを握らされていても

わたしまるで照れ隠し 苦笑い

トドメなら トドメなら

てめえでさせよ



5.始発のない駅


遠くに稲妻 枕木に抱かれて

濡れた線路耳擦りつけて

確かに迫り上がる力を聞いた


怯えずに跳べば

掴めたはずの大地なのに


それがぼくだと 気づいたのは

まだまだ後のこと

ずっと後のこと


誰のためでもない灯火

雨の銃弾にはたき落とされ

終わりのない夜 旅の始まり


冷たく潰れる身体を

なぜか見つめている 見つめている


それがぼくだと気づいたのは

まだまだ後のこと

ずっと後のこと



6.午前三時の警笛


立て膝 肘つき マッチひと擦り

真っ赤な炎 ほんの一閃

虚げ 転がる注射器の針

青い煙 裸にまとって


ねぇ 聞こえる長い警笛

ねぇ 今何時? 午前三時

軋み歪む鉄の軌道

唸り声あげて朝がくる


針を束ねたような陽の光

黒点の憂鬱はそうね まるでわたし

夏の盛りだというのに凍えきって

見てよ 震えが止まらないの


ねぇ 聞こえる長い警笛

ねぇ 今何時? 午前三時

わたし夜の底へ落ちていく

注射の痕が痛い 痛い


どこかで笑う息子の代わりに

思い出ひとつ夜に抱き寄せて

夢を見るだけの長い夜は

朝を待たずにいつまでも


ねぇ 聞こえる長い警笛

ねぇ 今何時? 午前三時

軋み歪む鉄の軌道

唸り声あげて朝がくる



7.音無川心中


白い吐息 マフラーにして

重ねる想い 言葉も尽きないよね


あなたはカミソリの上でバランス


あなたが捕まえた そばから

低く波がわたしを砕いた

突き崩されたモザイクを

並べ直しても埋められないの


つないだロープを手繰り寄せれば

まだ笑えると思うのよ

流されて 沈んでわたしは見つける

まだ愛してると思うの

涙まじり あなた


ため息口移しして

重ねる想い 互いに心探り当てて


あなたはカミソリの上でバランス


せせらぎですらあなたを穿ち

低く波が捻れて切れる

突き崩されたモザイクを

裏返して飲み下していく


つないだロープを手繰り寄せれば

まだ笑えると思うのよ

流されて 沈んでわたしは見つける

まだ愛してると思うの

涙まじり あなた



8.エラーコイン


石段駆け上がる跨線橋

空へ伸びる線路

見下ろせば見たことない窓明かり

頭垂れて眠る桜の碧

肩並べる紫陽花

小さな滝永遠の居眠り水音


揺れる木陰を縫って

踊る片足のアマガエル

鼻歌でわたしを窺う

片腕の黒いザリガニ

秘密は脱いだ靴下に包んで投げ入れた


五円玉穴の中にぜんぶ詰め込めた昼下がり

まぶた閉じれば彩られた世界なのに


爆弾を積まない飛行船

砲身のない船

校庭に消えたいつかのジープの轍

タバコ屋でわかばとロッテガム

利き腕のちぎれたシャツ

焼け爛れた歌声 駅前ラッパの涙


空襲警報代わりに空で首傾げるアドバルーン

錆びついたペダル

路面電車追いかけ追い越して

秘密は脱いだ靴下に包んで投げ入れた


五円玉穴の中にぜんぶ詰め込めた昼下がり

まぶた閉じれば彩られた世界なのに


五円玉穴の中にぜんぶ詰め込んだ夜長に

鉄の格子を跳ねて躍る月を追う


お父さん

お母さん

お兄ちゃん

お姉ちゃん


9.崩れるかもしれない


あるはずの声をかき集めながら

昨日を組み立てる

崩れそうなぼくの微笑み

苦しくて食事も冷めていくばかり


取り戻せないきみの心

瞬く瞳に揺れているはずのまつ毛

手を伸ばしまぶたを閉じてあげよう


もし雲の切れ間から舞い降りる

ぼくに似た誰かがいるのなら

どうかきみを きみを空へ誘って

涙が届かない世界へ


ぼくを責めないで もう

責めないで 責めないで


賑わう窓の向こう

ぽとりぽとり落ちる影

埃混じりの涙

ひとつ ふたつ みっつ よっつ

うなだれて揺れて捻れて軋んで

崩れるかもしれない


取り戻せないきみの心

高鳴る胸から溢れ出たはずの吐息

もう迷わないよね 眠りについていいよね


もし雲の切れ間から舞い降りる

ぼくに似た誰かがいるのなら

どうかきみを きみを空へ誘って

悲しみが届かない世界へ


ぼくを責めないで もう

責めないで 責めないで

責めないで 責めないで



10.空色ビオラ


あなたはいった

「愛は夜の闇に打ち克つ」と

「夜明けまでの孤独に耐えうる」と

でもあなたがここにいなければ

生きていけない


ビオラのような小さなわたし

雨そぼふる夜の闇に

朝陽を待つ勇気がない

鳥の寝息 虫の音 地を転がり走る風も

心に小波をたててくれない


ビオラのような小さなわたし

空を仰ぎ向かい合う手も届かない虹の壁

陽を遮る低い雲にすらたどり着けない

あなたが今どこにいるのかわからない


あなたが昇った空の蒼

そっと気を取り手鏡のように覗き込む

向かい合ったつもりでも

そこに写るのはあなたではない

わたしがあなたそのものだから


わかったことがある


これはあなたの手

これはあなたの足

これはあなたの耳

これはあなたの瞳

わたしはあなたの想い口伝て

あなたの人生を繋ぎ

あなたの人生を写しとる

忘れなければ亡くさない

誰にも奪い誰にも隠すことを許さない

それがわたしの生きる約束

生きる約束